サービスブループリントとは、「サービスがユーザーに提供されるまでのプロセスを、サービス提供者・システムの動きと合わせて視覚化するツール」です。 サービス運用・設計に適したツールの1つとも言われており、1980年代前半にG. Lynn Shostack(リン・ショスタック)氏が提唱しています。
またブループリントは、日本語で「青写真」。図面などの複写に用いられていたことから、日本のビジネスでは比喩的に「将来計画」や「完成予想図」などの意味で使われることがあります。
サービスブループリントとは
前述の通り、サービスブループリントは「サービスがユーザーに提供されるまでのプロセスを、サービス提供者・システムの動きと合わせて時系列で表すツール」です。
ここでは少し具体的にイメージできるように、病院の診察を例に挙げて説明しましょう。
病院では、診察を受ける患者(=ユーザー)が通院し、受付を済ませ、医師による診察を受けてから薬を処方してもらうまでの一連の流れの中で、医療事務員・看護師・医師・薬剤師・院内システム(=サービス提供者・システム)などの多くの人とシステムが患者(=ユーザー)に合わせて動いています。
サービスブループリントでは、このようなユーザーとサービス提供者・システムの動きを視覚化することが可能です。
またサービスブループリントは、ただ作っただけでは不十分です。 現状を正しく把握・分析し、現場から上がってきている課題はどこか、改善の余地はないかを考える時とそれらの情報を組織内で共有する時にもっとも有効的に活用できるといえるでしょう。
ユーザーとサービス提供者・システム双方の動きを視覚化する
サービスブループリントでは、
- ユーザーから見える範囲を「フロントステージ」とし、「ユーザー体験」を描く
- ユーザーから見えない範囲を「バックステージ」とし、サービス提供に至るまでの「業務プロセス」を描く
という2つのアプローチで、ユーザーにサービスが提供されるまでのプロセスを明らかにしていきます。
この作業を行う際には、起点をユーザー行動とすることで、ユーザーから見えているフロントステージとユーザーから見えないバックステージのサービス提供者やシステムがどのように連携しているのかを視覚化することができます。
どのような場面で使うのか
サービスブループリントは、ステークホルダー(サービス提供者側のスタッフやシステム)が多く関わるプロジェクトほど、より大きな効果を発揮します。 たとえば、いくつかのシステムが複雑に連携していたり、多くの人が利用・介在するシステムに関するプロジェクトなどです。
またサービスブループリントはプロダクトのリリース状況に関わらず、どのようなフェーズであっても活用可能ですが、プロジェクトの初期設計時または組織・部門間での連携が必要な段階に取り入れることで、認識合わせやコミュニケーションの促進に役立つことでしょう。
カスタマージャーニーマップとの違い
確かにユーザー体験の視覚化という点では似ている部分があるものの、カスタマージャーニーマップとサービスブループリントでは目的が異なります。
まずはそれぞれを改めて定義してみましょう。
- カスタマージャーニーマップ:ユーザーが商品・サービスとの関わりの中でたどる一連のプロセスを視覚化したもの
- サービスブループリント:カスタマージャーニーマップから抽出できるユーザーの行動からサービスとの設定にファーカスし、ユーザーとサービス提供者の関わり方を視覚化した上にサービス提供者側のプロセスを加えたもの
このように捉えることで、ツールとしての違いがより明確になったのではないでしょうか。
上記に加え、この2つのツールには重要視しているポイントも大きく異なっています。
- カスタマージャーニーマップ:ユーザーの体験を中心に捉え、視覚化を行っている
- サービスブループリント:ユーザー行動を起点としているが、サービスの提供プロセスに中心に視覚化を行っている
このように、カスタマージャーニーマップはユーザー体験の整理を行う目的で、サービスブループリントがカスタマージャーニーマップで見えたユーザー行動からサービスの提供プロセスの整理を行うことが目的になっているのです。
つまり…ユーザーに焦点を当てる際にはカスタマージャーニーマップを用いた視覚化を行い、ユーザー体験から行動部分を切り出して業務プロセスを視覚化したい場合はサービスブループリントを用いた方が適切であるということでもあります。
UXデザインプロセスにおけるサービスブループリントの位置付け
カスタマージャーニーマップとサービスブループリントでは、焦点を当てる対象が異なります。
- カスタマージャーニーマップ:ユーザーに焦点を当てながら考える
- サービスブループリント:サービスのプロセスに焦点を当てながら考える
このような違いを理解した上で、UXデザインプロセスにサービスブループリントを活用すると、どのようなことが起こるのでしょうか。
その答えは非常に簡単です。 カスタマージャーニーマップだけでは理解することができなかった、対象サービス内の処理フローを具体的な形でイメージすることができるようになるのです。
またUXデザイン後のプロセスには、エンジニアによるシステム設計や実装が控えていますが、エンジニアからはサービスブループリントの方がシステム設計に必要な情報量が多いといえます。 エンジニアはサービスブループリントを起点にして、システムの処理内容をより具体的に定義していくことができるようにもなるのです。
したがってサービスブループリントは、UXデザインプロセスから実装プロセスに移行する際の情報としても、重要な役割を担うことになります。 プロジェクトの規模や性質から判断し、システム設計や実装に必要な情報を追加する形で、サービスブループリントの持つ情報量を増やすという選択もできるようになります。
業務システム改善との相性が良い
弊社のUXデザインプロセスでは、カスタマージャーニーマップとサービスブループリントの双方を目的に合わせて使い分けたり、それぞれの特性を活かした独自テンプレートを使用しています。 このような活用方法になってきたのも、実は前述のような内容を社内で議論したことがきっかけになっています。
また社内議論の後には、日々の業務の中でも新しい気付きがありました。 それは「弊社の得意とする”業務システムのUX/UIデザイン改善”では、カスタマージャーニーマップよりもサービスブループリントから得られる情報の方が有益となるケースが多い」ということです。
あくまで条件が一致した場合に限りますが、もしあなたが業務システムを対象としたUX設計を検討しているのなら、より多くの時間をサービスブループリントに使うべきといえるでしょう。
まとめ
本記事では、サービスブループリントを以下の視点から考察してみました。
- サービス内の処理フローを登場する人とシステムを含めて視覚化したもの
- カスタマージャーニーマップとの位置付けや使い分けが重要になる
- システムの処理フローをUXデザイン側からの視点でまとめたものと捉えることができる
- デザイナーとエンジニアのコミュニケーションにも活用できる
- 業務システムのUX/UIデザイン改善の際に役立つ